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>>The Voice Of Energy
星観町のお隣、月島町――そこにあの秋雨家邸宅が存在する。堂々とした気風の玄関から、まるで昔からこの場所で栄えてきた家柄のようだが、とんでもない。この家はまだ築50年にも達していないのだ。
その家の2階の和室に、水鏡はいた。色んな小物がバラバラながらも整然と並べられたその部屋は、彼にとっては既に見慣れた光景となっていた。
「出来た! 出来たよ!」
水鏡のすぐ隣から、嬉々とした少女の声が発せられた。彼よりも幾回りも小さな体は、活き活きとした動きを見せる。
彼女は算数のドリルを見せながら、じっと彼を見つめている。
「これで今日の分は、全部終わったね」
「うん!」
ドリルを片付ける水鏡の挙動を、少女はじぃと見続ける。それに気付いた彼は、彼女の頭をやさしく撫でた。
「むふ〜♪」
体をくねらせるように、身悶えする少女。甘えているのか恥ずかしがっているのか、判断しにくい対応だが、喜んでいる事だけは分かる。
相変わらず、少女・璃々は元気だった。




>>水鏡
今日の勉強はもう終わった。本当はあと1時間くらいドリルをする予定だったんだけど、璃々ちゃん、全部解いちゃったからな。
「璃々ちゃんは、やれば出来る子だね」
「そうなの?」
「その証拠に、ホラ」
僕は、片付けようと手にしていたドリルを、開いて見せた。そのページは、来週あたりにしようと考えいたところだ。
つまり、彼女は予習の復習まで終え、さらにその見直しまで終わらせちゃった……という事。
「璃々ちゃんは賢いなぁ。こんな難しい問題、よく解けるね?」
「水ちゃんの教え方が上手だからだもん」
謙遜なのか彼女は、僕を持ち上げようとするけれど……解けないんだってば、僕には(汗)。
「それに、水ちゃんが困ってるみたいだから、早く解いてあげなくちゃ……て思って」
あ、心配そうな目で見られた。何だか、悪い事しちゃったかな。
「どっちにしろ、解けるんだから、良い事だよ。明日は国語にしようか?」
「漢字、キライ……」
「苦手でも頑張らなくちゃ。5年生までの漢字なら、もう覚えたんだから、あと一息だよ」
「だって漢字って画数が多いから、むずかしいよぉ」
「まぁまぁ。せめて6年生までの漢字でいいから。ね?」
「むぅ……頑張る」
納得がいかない、と言いたそうな顔をする璃々ちゃん。ここであまり機嫌を損なうと、後々厄介な事になりそうだな。
僕はもう1度頭を撫でた。
「むふぅ〜♪」


「ところで水ちゃん、何読んでるの?」
ちゃぶ台に広げられた新聞に、今頃気付く璃々ちゃん。僕はその中から、1つの記事を指さした。
「ここだよ」
「『きわめてひがし、おおきいにしよう……ほにゃらら……ちょうさたい、の、ほにゃらら……けってい』?」
「『極東大西洋発掘調査隊の派遣決定』ね」
漢字辞書片手に解読したから、漢字は――この記事に限れば――お手の物だ!
「要するに、能力省が大西洋に、調査隊を送り出したって事だよ」
「ふぅん……何をさがしてるのかな?」
「古代文明さ!」
僕は、普段よりも語調が強くなっている事を自覚した。
「大西洋は、今から何千年も昔に存在していた、頭脳国家の跡地と予測されているんだ! 僕たちが心獣を使えるようになったのは、召霊石(オーブ)と呼ばれる結晶のおかげなんだけど、この文明はそれを生み出したところといわれているのさ!」
「ふぅん」
「あれだけの代物を作り出したくらいだもんなぁ……この海の下には、もっと凄い技術も眠っているんだろうなぁ……!」
「それをさがすのが、この人たち?」
そう言って璃々ちゃんは、写真に写っている人たちを指さした。
「そう! この人たちは発掘のプロなのさ! 日本でも去年、徳川家の埋蔵金を掘り出した事で、有名なんだよ!」
「まい……きん?」
「埋蔵金! 貯金みたいなものだよ! ……とは言っても、見つかったのは掛け軸だけだったらしいけど」
「ガッカリだね」
「いや、そうでもないらしいんだ。何でも、徳川家17代全員の寄せ書きがされていたみたい」
世代が代わるたびに、その掛け軸に記念としてサインをしていたようだ。尤も、想像以上に繁栄しなかったらしく、半分近くが白紙だったとか。
「良いなぁ……楽しそうだなぁ……おもしろそうだなぁ……」
「水ちゃんって、こういうの大好きだもんね」
「そりゃ、もう!」
思わず叫んでしまった。
「でも、僕みたいなペーペーじゃ、参加すら出来ないんだ。僕は、こんな賢い大学に行けないだろうから」
「すごい人たちなんだねぇ……」
「凄いさ。あーあ……あの憧れの発掘隊……はぁ……」
今の僕にとっては、羨ましいを通り越して、もはや神様同然の存在だ。考古学とは、何と夢のある職業なんだろう……!


「ねぇ、ねぇ……」
ふと璃々ちゃんが、僕の袖をくいくいと引っ張った。
「これ」
彼女は、新聞の一文を見せてきた。
「ここ読んでみて」
「どれどれ……『――調査隊は、心獣省長の指示を待つため、しばらく同大学にて待機する事に――』……これがどうしたの?」
「えっとね、えっとね……その人たちって『能力省長』の下で働いてるの?」
「働いているというか、直属の組織だからね」
「それじゃ、その『能力省長』になれば、その人たちに指示を出せるの?」
数秒の間。
「……あぁ!!」
家全体が揺れたかと思う程の大声で、僕は叫び声をあげた。
そうか! そうだ! そうじゃないか!!
何もこの、発掘隊にならなくてもいいじゃないか!
省長になれば、この発掘隊の全指示を出せるんだ! それも、思いのままに!
「決めた! もう決めた! 今度のB-1に出場する!!」
「水ちゃん、がんばるの?!」
「頑張る! 頑張っちゃう! そうか、気付かなかった! 省長になれば、自分の好きなように発掘出来るんだ! 『現場の労い』とか言って、現場にも行けるじゃないか! 凄いぞ、璃々ちゃん!!」
隣で新聞を覗き込んでいた璃々ちゃんを抱きかかえながら、僕は何度も彼女の背中を叩いた。
「ありがとう! 気付かせてくれて、ありがとう! 凄いぞ、凄いぞ!」
「けほ、ごほ、痛い……(汗)!」
「やるぞ! やってやるぞ! 憧れの考古学ライフが、今! この日から始まるんだ!」
「げほ、こほ、おー……(泣)!」


――10分後、呼吸困難に陥る璃々ちゃんを、僕は介抱するのだった。

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